これまでの
国別の労働市場における指標をみていくと、より質的な要素に重要な部分が見えてくる。すなわち技術進歩、グローバル化、
人口動態・高齢化の結果、労働市場におけるスキル等の質的な需要も変化し、スキルの重要性が従前より増しているということである。
そして、労働生産性は、このスキルに影響を受けている点が重要である。
技術進歩により、多くの職業の内容や仕事が再構築されうる。例えば、最近では生成AIによって、全ての職は生成AIの影響を受け、
生成AIから特に大きな影響を受ける職も存在することが確認されている。また生成AIによって労働者の生産性向上につながる
可能性（Brynjolfsson, Li & Raymond （2023）
、Noy & Zhang （2023））や、生成AIに関連する仕事及び関連スキルの需要が伸びている。
また人口の高齢化は世界的に医療システムに多大な圧力をかけており、医師、看護師、介護従事者のスキルが広範囲にわたって
持続的に不足する状況を生み出している。雇用者が履歴書を検索したデータを分析したところ、ヘルスケア分野のスキルへのニーズが
特に高いことが明らかになっている。また多くの国では、ヘルスケアのニーズに加えて、機械工や電気技師といった工学スキルを
求める傾向が強い。
アメリカでは、スキル重視に移行している結果、学歴要件を求人の雇用条件から外す傾向にある。学歴要件がなくなることで、
雇用主が最良の候補者を引きつけるためにスキル優先の採用アプローチを用いる。そのため、生成AIなどの新しい技術を積極的に
活用する意欲のある労働者やスキル開発意欲のある労働者は恩恵を受ける可能性が高い。そして、人口動態が労働力の供給を
圧迫する中、雇用主はAI技術などで今後数年間重要度が高まるであろう人材を確保する狙いがある。
カナダでは、生成AIによる職業の不安定化への懸念から、むしろ対面サービスや人と人とのやり取りが必要な職種への関心が
高まっている。生成AIの影響を受けにくいこれらの職種への志向は、技術進歩に対する直接的な反応として見ることができる。
労働市場の変化に対応するため、各国は技術進歩と人口動態の双方に対する適切な対策を模索している。特に、生成AIの進展が
もたらす職業構造の変化や、高齢化が進む社会での医療や介護分野の需要増加に対応していく必要がある。これらの課題に
効果的に対応するためには、リスキリングの取り組みがより重要になってきているといえるだろう。